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May 31, 2010

ヰタ・マキニカリス(その5)

突然思い出したように続く我がカメラ遍歴のその5。コダック・シグネット35は購入して直ぐに手元から離れて行ったが、その後手元に舞い込んできたのがニコンFだった。わが手をすり抜けて別の男のもとに行ってしまった娘の代わりにその姉がやって来たような、少なくとも小娘の保護者的存在感のニコンFなのだった。その重量感、戦場でも活躍する堅牢無比な作り、フィルムを抜けばそのまま武器としても使えそうな無骨感、姉に例えて無骨感もないものだが、そういう堅牢、無骨な割には繊細さを兼ね備えているのがニコンFのデザインの不思議さと言えるのではないかと思う。その理由の一つは、金属感に徹していて操作性を向上させるためなどとして余計な樹脂部品を付けていないことにあると思う。もう一つは筐体に変な丸みを付けていないことだ。

巻き上げノブは摩擦を上げるためにギザギザが付いている。決して樹脂を張り付けたりはしないのだ(後期モデルでは付くのだが)。そのため巻き上げるたびに右の親指が擦り剥けて痛くなる。血の滲んだ親指の腹にバンドエイドを巻いて凌いだりした。カメラを持たない日も何故か親指にはバンドエイド。このバンドエイドがニコンFを所有する者の証しのような、そんなことを妄想しながら、実は絆創膏をしているニコンF使いなど誰もいないのだった。それは単に指の皮が薄いだけだったろう(笑)。

これは新橋駅前のウツキカメラで買った。シルバーのアイレベルだった。いまアイレベルと打って「愛レベル」と変換されたが、これは凄い。そう、そうなんだ、愛レベル、小生のニコンFへの思いはまさしく愛レベルなのだった。MS-IMEは天才か。(変換が馬鹿とも言う。いや馬鹿は小生か。)

当時新橋駅前はちょっとした中古カメラ街、というほどではなかったが、他に新橋カメラ、大庭商会があって、それぞれが個性的な店だった。ウツキカメラは舶来指向でライカのヴィンテージが揃っていたし、新橋カメラは実用、大庭は国産や部品などが充実していた。

そのころ普段よく利用していた東横線で、ローライ35をまるでペンダントのようにいつも首に下げている青年を見かけて、そのおしゃれ感に打ちのめされた。知り合いではないが駅でよく見かける人だった。ある日、彼が友人と話しながら、自然なしぐさでローライの沈胴を捩じって友人を写すのを見て途端に欲しくなった。この東横線は小生のなかではかなりカメラグレードというか、カメラ指数というかの高い路線で、ライツのM5やローライフレックスなどを極く自然に肩にかけている人を車内でよく見かけたし、ボレックスをむき出しで当たり前のように手に提げている人を見たことまである。やはり沿線は高級住宅街でもありそういう趣味の人が多いのだと思うが、小生にとって目に毒な路線ではあった。

(執拗につづく)

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