癒しの踏み絵 / 荻上直子 『めがね』
めがね、の検索語でamazonのDVDを検索すると何故かアダルト作品ばかりがヒットするのだけれど、そもそも眼鏡がそんな言葉だったかどうかは別として、この間、第58回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門でマンフレート・ザルツゲーバー賞というタイトルを獲得した荻上直子の作品「めがね」を欧州に向かう機内で観た。荻上といえば同様に小林聡美ともたいまさこを配役した「かもめ食堂」(2005年)だが、本作はその続編かと思ったもののテイストはより「癒し」の方向へシフトしたものとなったようだ。
教職にあるらしき小林聡美演じるタエコはおそらく日常の喧噪を離れる目的で海岸のホテルに行く。そこで出会う一風変わった人々、光石研、もたいまさこなどに当初はいらだちを感じながらも次第にそのゆったりとしたリズムを受け入れて行く。もたいも光石も、そしてそこに入り浸る生物教師役の市川実日子も、なぜそこにいるのかが明かされないまま物語は何事もなく淡々と過ぎて行く。
荻上は前作でも一つのモチーフとして和食を据えたように、本作でもそれこそ機内のまずい(エコノミーだからか)食事を摂りながらではなおさらのこと溜め息の出るような美味しそうな料理が出てくるが、これも今後「荻上らしさ」のキーワードになってゆくのだろう。
しかし、この癒しは少々とって付けたような感がなきにしもあらずだ。とって付けたというよりそこはかとなく押しつけがましさを感じてしまうのは小生がひねくれているからだろうか。この映画のキーワードである「たそがれる」ことをじわじわと要求されているかのごとき主人公と、実はそれを観る映画の観客にもこの映画を「分かる」ことが要求されている居心地の悪さ、と言っても良いかも知れないが、これは一種の踏み絵のような感じがしないでもない。本当の癒しが分かるアナタはこの映画にも共感する筈ですよ、さぁ、どうですか?というような。
そういう意味では、主人公が一旦そのいたたまれなさに宿を飛び出してゆくときに、やはり同じように飛び出してしかし再び戻らない人物を設定したならばよりその秘密結社風テイストが際立つと思うが、その後急転直下、登場人物ら全員でテロを犯してしまったりするというような不埒な物語の想像をしてしまう小生は余程疲れているのだろうか。あぶない。早くめがねのホテルへ行って一生懸命癒されなければ。
とはいうものの、前作同様、間(マ)の使い方はやはり秀逸だ。2007年、106分。
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