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July 08, 2006

『嫌われ松子の一生』

神保町のとある古書店の均一台に文庫の上下巻揃300円を見つけ読んでみたが、次から次に降りかかる不幸の連続はそれぞれがまるで昭和30年代のメロドラマに出てくるような使い古されたモチーフで、教師から風俗嬢、同棲、愛人関係、殺人、服役、その間に男の自殺、ドメスティックバイオレンスなどおよそ考えられる不幸のオンパレードなのだった。しかし、それらを敢えて臆面もなく目の前にそれこそこれでもかと並べて見せる手法は今では返って新鮮に感じる。文庫の解説子が引用しているように、昼ドラ「牡丹と薔薇」がそんなステレオタイプを逆手に取った手法で大当たりしたことと一脈通じるものがあるし恥ずかしげもなくベタな展開の韓国ドラマの流行をみてもそれが当世の気分なのかも知れない。
「嫌われ~」は、主人公の死をきっかけにその甥が彼女の人生を明らかにしてゆくという筋立てで、横糸に父親への思慕、妹へのアンビヴァレンツな思いなどを絡めて、過剰にドラマチックな話ながら、甥という俯瞰の視点を据えた構成で松子という見ぬ叔母の人生をあぶり出してゆくというのは構成としてなかなか上手い。文芸作品とは言い難いが、昼ドラを見るような気分で読むには充分楽しめるしそれなりに引き込まれる。
例えそれが身から出た錆であっても笑ってしまうほどの不幸と転落、そしてその死に方に至るまで、明らかになってゆく松子の人生というものは例えそれが世間では指弾されるようなものであっても希望を捨てず精一杯生きるということの美しさを教えてくれる。これはどん底へ墜ちてゆく不幸の物語ではなく実は明るく幸せな物語なのだった。

で、お財布に割引券があるのを発見して中谷美紀主演の映画も観に行った。事前に監督の中島哲也と中谷の間に確執があったなどという前評判(?)も聞いていたのでそういう興味もあって、小さな小屋ながら客席はほぼ半分の入りだった。

『嫌われ松子の一生』オフィシャル・ブック中島は前作「下妻物語」(2004年)で話題となったが、CF出身の監督ということであまり期待をしていなかったし、始まってからはまるで30秒コマーシャルのような画面の連続で、これは失敗かな、と思ったが見進めてゆくうちにそのケレン味たっぷりの構成が実は緻密に計算されたもので、特に後半からはその物語性が効果的に浮かび上がってくるのだった。随所にちりばめられた遊び、土曜ワイド劇場の片平なぎさを本人役で登場させたり、昭和40年代の歌謡曲をフルコーラスで歌わせたりという斬新な構成でもしかするとこれは後々日本映画史に残る作品かも知れないと大げさにも思ってしまった。最初ハズレと思ったものの結局こういうの全然アリでしょう、と言いたい気分。スピード感溢れる画面展開と効果的に差し挟まれるCGのミュージカル映画と言ってしまえば一言で言い得ているかどうか。

同じ不幸でもこれは明るく希望に繋がる中島版「ダンサー・イン・ザ・ダーク」だ。
2006年、130分。

■嫌われ松子の一生 オフィシャルサイト
- http://kiraware.goo.ne.jp/

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