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December 04, 2005

モノクロ印画紙の現在 / デジタル時代のモノクローム

写真が次第に銀塩からデジタルへ移ってゆくにつれモノクロ写真のあり方が変わって来ているように思う。銀塩ではもちろんのこと、まずモノクロを撮るのであればモノクロフィルムをカメラに詰めて撮影に臨むことになる。最初からモノクロを撮る心構えで被写体や画面を考えながら写すということが撮影の流れになってくる。
しかし、デジタルではその事前選択の必要はない。コマ毎にその場でモノクロにするかカラーにするかを自在に考えることが出来るし、撮影後の画像処理の段階で決めることも可能だ。むしろこの方が多いかも知れない。
小生の場合、フィルムスキャナを購入してからは銀塩カメラで撮影する際には後でデジタル化することを想定して、以前は殆ど使っていなかったカラーネガフィルムを多用するようになった。最終的にはモノクロにするつもりでも、結局デジタル化してしまうのであればカラーネガが簡便だ。フィルムの値段は安いし、インフラとしての街のミニラボは減少しているとはいえまだまだある。というわけで、以前は必ず撮影後の宿題、つまりモノクロ現像処理をしなければならなかったのだが、最近は殆ど、というより全くやらなくなった。
学生時代からモノクロはトライXを100ftの長巻きからLPLのデイロールでパトローネに巻き込みISO400で撮影、コダック処方のD-76を1:1に希釈して20℃8分のタンク現像というのを基本にしていた。D-76は現像の都度廃棄する。この方が液の疲労を現像時間で調節する必要がなく、いつも同じ条件で現像が可能というメリットがある。また希釈現像は粒子も鮮鋭でグラデも豊富な仕上がりになって好都合だ。増感は富士のパンドール、またコダックのテクニカルパンを軟調現像して超微粒子現像をやったこともあった。
一方紙焼き、つまり印画紙への引き伸ばしは、三菱の月光2号を基本として現像液はD-72、フェロタイプはかけず自然乾燥というのが定番だった。作品は(無論大したものではないが)バライタ紙にこだわっていた。過去形なのはこれもいまは殆どやっていないからだ。引き伸ばし機もこの間点検すると、コンデンサが曇っていてもう使い物にならないかもしれない。真夏や真冬など、氷やお湯で温度調節しながらの現像は大変だったが、いまはPC上でフォトショップで焼き込み、出力はインクジェットプリンタで済む。簡単でクリーン、廃液もでないので環境にも良いし、完全に明室で処理できるなどとは以前は想像もつかなかった。

しかし、適正にアーカイバル処理された銀塩の印画紙はインクジェットプリンタなど想像もつかない程キレイなものだ。如何に技術が進んでいるとはいえまだまだ全く別物といってもよいのではないだろうか。
モノクロ印画紙は既に昭和40年頃から現像処理時間が短縮可能な、樹脂でサンドイッチした原紙を使ったRC紙が普及してバライタ印画紙でのフェロタイプ乾燥が不要になっていたものの、両者は美しさの違いで歴然としている。小生がバライタにこだわるのもこの美しさ、精緻さが格段に違うからだ。写真集でのグラビアをみてもその違いは分からない。作家の焼いたオリジナルプリントを、できればガラス越しではなく直接見れば、それはもう複製芸術というよりそれ自体がひとつの「工芸品」だということが分かる。バライタの黒は非現実的な程に黒というリアリティが濃厚でこれは写真表現ならではの美だと思う。

「写真工業」誌、2005年10月号特集の「黒白印画紙はどうなる」では、現在販売されているモノクロ印画紙のリストが載っていて興味深かった。AGFA PHOTO社の倒産やILFORD社の王子製紙による買収など銀塩メーカが減少しているなかでコダックが今年でモノクロ印画紙の生産を中止するという話には衝撃を受けた。
そんなファインプリントという一つの芸術を失うのではないかという危機感のなかで、まだバライタ、もしくはRC印画紙の生産を行っているメーカには是非とも文化事業ということででも良いから生産を継続してもらいたいものだ。

この特集では、フランス在住のピンホール写真家として有名な田所美恵子さんが、蚤の市などの骨董市で古い期限切れの印画紙を求めて作品に使用しているという話があって興味深かった。納得の行く印画紙を妥協なく探求する芸術家のこだわりをかいま見て非常に感慨深い話だ。写真はイメージだけではなく、版画や絵画と同じくプリントそのものが作品であり写真表現だということを改めて認識したい。

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