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April 05, 2005

『宮本常一写真・日記集成』

ひと頃、荷風の断腸亭日乗を読み耽っていたが、死の間際に近づくにつれ綴られる言葉の少なくなるさまが胸に迫った。この希有なニヒリストは世の動きを冷酷に突き放しながら足繁く玉ノ井へ通いつめる。かなり前に岩波が文庫にしてからしばらくはその面白さに没頭したが、いま覚えているのは少々憚られるが玉ノ井の娼妓に言い及んで「無毛美開ナリ」というくだりのみ。しかし、他人の日記を読むということは何故これほど面白いのだろうか。ひと頃、つまらないweb siteの代表格が日記と言われたものだが、blogの普及でいまやwebは日記や独白で埋め尽くされている。しかしどんな日記でも仔細に読むとそれなりに興味深いものだ。そのわけは他人の人生の追体験か、それとも窃視に似たものなのか。

在野の民俗学者、宮本常一は佐野眞一の評伝で読み始めたが、名著「忘れられた日本人」は極私的にも強烈な読書体験だった。その日記と正史から欠落していた常民としての日本人を捉えた厖大な写真群を上下別巻にまとめたのがこの本だ。定価6万円もするのでおいそれとは買えないが、書店で見本を立ち読みしてその場を離れられなくなった。おそらく主にハーフサイズのオリンパスペンで撮られた昭和戦後の日本人は、現代の日本人が決定的に失ったものをまだ色濃く残している。日本人は戦後なにを失って何を獲得したのか。それが民族に取って果たして正しかったのか否か。よく言われるフレーズではあるが、なにか酷くつまらないものと引き替えに豊かなものを失ってしまった気がしてならない。単なるアナクロニズムや回顧趣味のつもりはないが、おそらく歴史ある国では実は皆大事にされているものを日本は断絶させてしまったのだろうか。しかし資料として撮られた写真とはいえ、それぞれがとても美しい。
本当は手元に置いておきたい本だが、それも叶わないとすれば、近所の図書館の人目のつかないところに願わくば私専用としてひっそりと置いてもらいたい。

宮本常一 写真・日記集成 全2巻・別巻1
宮本 常一

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Comments

> 「無毛美開ナリ」
さすが荷風先生です。

ぼくは、有名な偏奇館炎上の夜の描写、
どてらにスリッパ姿の隣人フロイドルスペルゲル氏が
君の家も焼けるぞと声をかけてくるあたりを忘れられません。

こんにちは。ふりっかではお世話になってます:)
偏奇館炎上はひとつのクライマックスになっていますね。それで随分前に映画「墨東綺譚」(ケータイで満足に漢字が出ません)を観に行きましたがイマイチでした。しかし「無毛美開」そんなことばかり覚えている私って…(笑)

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  • Gangs of Kabukicho.
    渡辺克巳

    097154803X
    新潮社フォトミュゼの「新宿」が絶版となっているなかで最近刊行された渡辺克巳の最新写真集。洋書。



    先般亡くなった路上の写真家、渡辺克巳の写真集。インサイダーとして夜の新宿を流した彼の生の証はその写された人々と共に永く記憶されるべき。


    ジャパン
    倉田 精二
    4106024330
    渡辺克巳とくれば倉田精二を挙げずにはいられない。日本のウィージーと言われたストリートフォトの神髄。都市の殺伐と虚像をこれほど表現した写真はない。

    にっぽん劇場写真帖
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    奈良原の写真は既に絶版になった朝日新聞社の「昭和写真全仕事」を所有しているが、トラピスト修道院に取材した「沈黙の国」「人間の土地」「消滅した時間」などパースを駆使した知的で静謐な写真は独特の美。「無国籍地」は廃墟をモチーフにした写真集。その圧倒的な画面の構成美を。

    Cui Cui
    川内 倫子
    4902943026
    川内の作品は柔らかい光と深度の浅いクローズアップなどを多用して日常の「合い間」を独特の色調で表現している。小生の勝手な感覚ではあるが彼女の作品にはどこか「彼岸の匂い」のようなものが感じられてならない。明るく静かな日常。ふと視線を外して見上げる窓の外の空。こよないものたちの空間。この作品は家族の何気ない日常をテーマとした写真集。なぜだろう、頁をめくってゆくたびに胸が詰まってくるのは。


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