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April 07, 2004

『既視の街』 / 渡辺兼人

6x6のスクエアなフレームに切り取られた風景。視線はこの風景を冷静に突き放しているようだ。耳が痛くなるような静寂を感じる知的で孤独な風景だ。82年に日本橋のツァイト・フォト・サロンで写真展「逆倒都市」を見に行き、帰りに神保町の松村書店だったか、「既視の街」(新潮社、80年)を買った。そのとき私は肩にニコンF/ニッコール35mm、100ftの長尺から巻いたトライXをISO200に減感するというスタイルで、大学の講義へはあまり出ずに写真展ばかり渡り歩いていた。kishinomachi.jpg
こんなディテールばかり鮮明に覚えている割に他のことを忘れがちなのは何故か分からないが、渡辺の写真に影響されて、ミノルタオートコードを今はなき歌舞伎町の中古カメラ屋「ピンホール」で買ったりした。これはまだミノルタが千代田光学と言っていた頃の製品である。

余談だが、カメラが欲しくなるのは機能やデザインではなく、あの写真家が使っている、という一点に私の場合集約されるのである。この「既視の街」はオートコードで撮影されたと分かると、熱病のように同じカメラが欲しくなる。単純にガキなのであるが、その後このミノルタにはコダックのヴェリクロームパンを詰めてやはり痴呆徘徊する日々だった。

渡辺は人形作家・四谷シモンの実弟であるが、当時は全く知らずに両者に惹かれていて、ある日その事実を知った時の衝撃、というほどではないが、全く関係ないと思っていた二人が私の頭の中の線で結ばれたときには何かの冗談だろうと思ったりした。

「既視の街」は本来金井美恵子の小説であり、渡辺の作品はいわば挿画の趣で配されている。しかし、明らかにこれは渡辺の写真が主で、これに金井の小説を配した、というのが本当のところだと思う。そういう意図が明確な編集なのだ。渡辺はこの作品で木村伊兵衛賞を受賞している。

up to dateな写真シーンについても触れたいのだが、過去自分を擦過した作品・作家を極私的に振り返ってからでないと、何故かどうもそこに進めない気がして、申し訳ないけれど古い話ばかりを書いている。

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