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March 14, 2004

写真集 『連夜の街』 / 石内都

細身のジーンズに革ジャン、右手にはタバコを挟み肩にはカメラ、東陽町一丁目、洲崎の旧赤線を取材する石内のスナップが巻末の略歴欄に見える。クレジットは荒木経惟だ。埃っぽく死んだような街をすり抜けるようにして歩く、細身な石内は、当時私が抱いていた、いかにも写真をやりそうな女性のイメージそのままであった。

しかしこれは当時のおそらく一般的なイメージであって、現在の状況ではかなり違ったものとなるだろう。当時はアマチュアでも写真をやる女性というのはあまりいなかったように思う。いまでこそ、カメラを肩にした若い女性は極く日常的な風景となっているが、それもつい最近のことだ。

70年代~80年代にかけて活躍した女性写真家といえば、戦地に取材した大石芳野や沼田早苗、そして吉田ルイ子などが思い浮かぶが、石内は少なくとも私の中では彼女らとはかなり異質の、アンダーグラウンドの香りがことのほか強い作家として勝手に位置づけられていた。それは作家性の濃さ、という言い方をしても良い。

81年に刊行された写真集「連夜の街 endless night」では、各地の旧赤線を取材している。正確には、赤線があった場所の、その名残りのディテールの記録なのである。デモーニッシュでグロテスクな廃墟。当時の華やかさや隠微さが風化したディテールが荒い粒子のプリントに焼かれている。

この作家はおそらく、ものの持つ質感、マチエール、ディテールというものにことのほか惹かれ、こだわっているのだろうと感じた。
それを思ったのは、彼女の専攻が多摩美の写真科ではなく、織り科であったのを略歴に発見したからだ。

恵比寿の都立写真美術館でみた、出世作「アパートメント」、あるいは「絶唱・横須賀ストーリー」でも、おそらく対象物というより、暗室で醸し出されるプリントの銀塩粒子をこそ彼女は見せたかったのではないか、という気がした。

後年、詩人の伊藤比呂美とのコラボレーション「手・足・肉・体」、あるいは自分の生年と同じ人々の足を撮影した「1・9・4・7」、男性の皮膚を細部まで撮った「さわる Chromosome XY」 などコンセプチュアルな作品を次々と発表したが街や建物から生身の人間へと対象を移しているものの、みな共通してこの作家のマチエールに対するこだわりが露わだ、と思う。
朽ちかけた建物も街も人間の皮膚も、手織の布のように複雑で美しいマチエールを持っている。

ファンとしては最近の彼女の仕事を是非見てみたいと思う。


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